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2年前、歴史と伝統を重んじる京都西陣の地で、その技術とニューヨークの感性を融合した進化系着物のブランド「Rakuon」を立ち上げた女性、武田み音さんに、お話を伺いました。
私の人生に影響をあたえたもの
---み音さん、本日は宜しくお願いします。早速ですが、まず最初に、み音さんの人生に影響を与えたものを教えてください。
はい、私が大きく影響を受けたのは
「クリエイティブ・マインドセット」(Tom Kelly & David Kelly)
という一冊の本です。
意図せずして非常に複雑で困難な状況に陥り、出口が当初全く見当がつかなかった時に自分が現在できる最善のことを尽くせば解決につながるのではと考えて、思考法のヒントを体得するために読んだものです。
おすすめは「創造性の火花を散らせ!」の章です。
「問題の枠組みを捉え直す」テクニックは非常に有益で、思い込みをなくし否定するのではなく生産的な解決法を求めたこと、同時に知的な面での成長を忘れずに、そして行動することを実践したことが今の私に繋がっています。
今後も成長を忘れずに実践していけたらと考えています。
人生の転機
---とても面白そうな本ですね。私も今度読んでみたいと思います。では、み音さんにとっての人生の転機はいつ、どんな形で訪れたのでしょう?
私の人生の転機は、36歳で長女を出産後に公務員を辞めて初めての民間企業に勤務した経験です。
感銘を受けたのは、会社の経営方針が明確で社員にきちんと浸透していたことです。
その経営方針に基づいて各々の職責に応じた役割と成果を求める姿勢も非常に明快でした。
またロジカルにフレームワークを使うプレゼンも知的に刺激を受け、書籍を購入して勉強し始めた契機ともなっています。
これは現在の起業の際の考え方の基礎になっており発想力の訓練にもなりました。
---公務員と民間企業では様々な違いなどもあったのではないですか?
長女が幼い年齢での復職で、しかも初の民間企業でしたが、時間の使い方がみな上手で、時間外はあまりすることはなくJ―S O X対応など為になる仕事をさせてもらい感謝しています。
明確な役割のもと成果を上げる仕事の仕方を目の当たりにしたことは、私の仕事に対する考え方を大きく変えることとなりましたし、企業のガバナンスを知ったことは、現在の洛音に大きく活かされています。
---なるほど。これまでと違った環境に身を置く事で、み音さんの考え方にも大きな変化があったのですね。では、その企業を辞めて現在の活動にいたるには、どんな経緯があったのでしょう?また、その中で苦労したことはありましたか?
民間企業の2年勤務の後、公務員としてやり残したことがあるのではないかと考え始めて、再度公務員試験に挑戦して合格し、社会人枠で、とある自治体に採用になりました。
民間企業での2年間が非常に鮮烈だった為、公務員に戻った際は逆に戸惑いも多かったです。
起業しようと思ったきっかけ
関西出身ではないので当時住んでいた大阪や京都のこと土地柄や人物をもっと知ろうと今から5〜6年前よりイベントやセミナーに参加するようになり、そのなかでデザイナーや起業家の方を多く知ることとなり、彼らの思考法が自分にしっくりすることに気づき始めました。
財務部門に属していたこともあり事業の表裏(事業と資金繰り)を考えることが習慣化していて、起業家の自分の会社を成長させるための戦略の把握力に非常に共感を覚えることになったのです。
デザイナーはデザイン思考がやはりリーンスタートアップでいうところの戦略の構想力に符号していてこちらも多くのデザイナーの方に教えて頂くこととなりました。
準備に費やした日々
ちょうど5年前に起業に係るしくみや手順、ビジネスモデルを習得するGlobal Venture Habitat大阪(GVH)が主催するスタートアップキャンプに参加したのを契機に起業することへ傾倒してくこととなりました。
その際のビジネスモデルは今とは異なりますが、コーディングのスキルや活躍している方も多いネットワーク等は非常に役立っています。
その後多くの資源が残る京都に魅力を感じて繁く通うようになり、最終的に創業する2017年まで今のファッションテックというビジョンに行き着くまで、所属することになりビジョンにも影響を受けているファッション団体(NYC FTC)のあるニューヨークへの出張とともに多くの方に相談し、少しずつピボットしながら現在に至っています。
特に頑張ったこと
多くの老舗が連なる京都で、かつ需要が減少している着物にて起業することは多くの困難がありました。
そのなかで生き残り、認知されるために洛音ブランドの周知のため各種ツールやピッチイベントに登壇することと同時に良いものを作り続けることを心がけています。
起業家は「自分が成し遂げたい世界を自分自身が体現していく人」と定義しています。
熱意を持って取り組んでいる姿勢が起業には最も大切なのではないかと感じています。
何故、着物だったのか
元々ファッションが好きで、いつも他の方のコーディネートを見て「あの色を変えたらこうなるかな。」など考えているタチで、その「好き」が着物での起業に結びついています。
経歴的には公務員歴が長く起業後も公務員的に見られることが多く、そのイメージを払拭して本当に真剣に自分の会社を成長させようと起業しているのだということを、創業何百年という老舗企業が多い京都で認知して頂くのは非常に大変だったと思います。
しかし、こちらがわからないことを丁寧に教えて下さったり、さりげなく応援をして下さる京都の方々の懐の深さで現在の洛音があり非常に感謝をしています。
今、一番の原動力
---京都西陣という伝統と歴史ある土地での起業を決意し、実行されたみ音さんの熱意に感服致します。その熱意を次のステップへと突き動かす、一番の原動力とは何なのでしょう?
洛音のコンセプトである、京都西陣のものづくり技術とニューヨークのデザインをブレンドした「進化。着物」を目指して2017年12月に創業しもうすぐ2年です。
多くの老舗企業がある京都でやっと準備段階を経た年数といったところですが、大分軌道に乗ってきたのではないかと考えています。
この2年ほどは確かに大変でしたが、応援して頂ける方も増えてきています。
今後も感謝を忘れずに多くの方に弊社の着物を楽しんで頂く順調な洛音の将来の姿を想像することが一番の楽しみになっています。
---夢が膨らみますね。ではその今後にむけた、具体的なビジョンをお教えください
小売のあり方は急速に変化をしていますが、最近やはり自分のお店を持ちたいと考え始めるようになり、将来的には海外1店舗、国内2店舗ほどを持ち、着物を進化させる京都発の本格的なFashion-Techスタートアップになっていたいと願っています。
最後に
---み音さん、いろいろと興味深いお話を聞かせていただきありがとうございました。サワアラモードのお洋服とはまた違った世界の和服ですが、「身に纏う」楽しみはどちらにも共通するものがありますね。和と洋、その垣根を越え、またどちらも伝統を大切にしながら新しい文化が生まれる事を願います。
profile
武田み音
洛音 Founder & CEO
ファッションデザイナー
服飾コーディネーター
京都職人工房所属
NYC FTC所属
地域創生学会所属
GVH スタートアップキャンプ卒業