「思いっきりやってくれたらいい。責任は全部私がとるから」
当時の恩師の言葉が今に繋がっている・・・

研修オフィスSAKURA 代表 櫻井悦子

第4回目となる今回は、企業や官公庁、学校など幅広いステージで研修、講師を担われている研修オフィスSAKURA 代表櫻井さんの半生に迫りました。
独立して現在のお仕事を立ち上げられた経緯、人生の様々な場面で響く恩師のあの言葉。。
上品でしなやかな雰囲気の奥に覗く強い芯がそこにはありました。



教壇から始まった社会人人生


──現在の講師業の立ち上げに至るまでを教えてください。

まず私の社会人1年目は中学校の教壇から始まりました。
その当時は校内暴力が激しく学校が荒れていた時代で・・・

スタートはマイナスから始まりでした。
というのも、新任教師の紹介で私の名前が呼ばれた時に保護者席からどよめきが起こったんです!(笑)人生最初の躓きを感じた瞬間でした。。

新任で、不安で、、とても萎縮していました。
そんな時その学校の校長先生が職員歓迎会のときに、仰ってくださった言葉があるんです。

「思いっきりやったらいいよ、責任はわしが全部とるから。」

握手をしながら、まだ右も左も分からない私にそんな風に言えるなんて・・・と感動しました。
いつか私もこういうことが言える人になりたいと人生の目標が定まった瞬間です。

新人の私を信頼して任せてくれたんだ、その期待に応えようとがむしゃらに頑張りました。
それが私の社会人のスタートでした。

そこから養護学校と小学校に着任、博覧会やパビリオンのアテンダントをし、次はディレクター、そこで得た経験を元に企業ショールームでの人材育成を経て今の講師業に至ります。

何年か教壇に立っていて考えていたことがあって・・・
それは”私は人に見られるだけの私なのだろうか”ということ。

影響を受けた言葉が一つあります。
「人が死んだ後に残るものは、集めたものでなく、与えたものである」

これは氷点(三浦綾子著)を読んでいた時に出会った言葉。


▲著者:三浦綾子 販売元 角川文庫 参考価格 上巻691円 下巻691円

この言葉は神戸の大震災の後に多く広まった言葉なのですが、小学校の教師をしている時に新学期がはじまるといつも母が「今度は子供たちに何を残すの?」と言われました。

何かを残そうと思って物事に取り組むのと取り組まないのには大きな違いが有ります。これは仕事や経営、人材育成にもいえることです。

目的を持って接するのとそうでないのとは関わり方が変わってきます。

これから未来を作っていく子供たちが、何かを残す為にどんな力をつけないといけないのか、何が必要なのかということを念頭に置いて学級経営をしていました。

ちょっと変わった先生だったかな(笑)
でも自主的に動いてくれる子は増えていったと思います。

 



今も心に残る男の子


──人材を育成していく上で気にかけていることは?

みんな成長はしていきます、でも成長のタイミングと度合いが違う。あまり人によって指導に差を出すといけないのでどういうタイミングで伝えるのか、どんな意図があるのかをしっかり考えないといけない。

今すぐは分からなくてもいつかはわかってくれる、そう信じて向き合っています。

それを信じられるようになったのは学校での経験があったからですね。

養護学校に勤務していた時に心に残る男の子がいました。
名前は”ひとし君”。

彼にはとても影響を与えられました。その子はしゃべれなくって、手足も不自由でした。
ある時身体測定があり、お母さんが脱ぎ着しやすいお洋服を着せてくれていたのですが、なかなか着替えが出来なくて・・・

他の子達が教室に帰る中、保健室で私と彼とで、どしても手が動かない、肘が伸ばせないと悪戦苦闘。。保健の先生もいたのですが何も言わずに全然手伝ってくれなくて。
手伝ってくれたらいいのに・・・と内心思いながら(笑)

どんどん時間だけが経っていく中、「ひとし君がちゃんとしてくれないからやん!」とついに彼に言ってしまったのです・・・。

そうすると彼が声を上げて泣き出してしまって。。
その瞬間に「この子はこの子なりに精一杯やってくれていたのだ!」とはっ!気づきました。すぐに謝ったのですが・・・

相手には相手の考えがあるのだということをちゃんと認めて、こちらがどう関わるかということの大切さを改めて教わりました。

よく心を開くことが大切とは言いますが、実際に心が開いていく感覚が初めて分かった瞬間でした。

──相手を尊重して接し方を考える大切さがよく分かります。

その後のひとし君との関わり方なのですが、例えば掃除の時。
雑巾がけをする時に、彼が何がどこまで出来るかを把握しているから、あえて少しづつバケツまでの距離を伸ばしていってここまで来れたら次はここ、と出来ることを増やしていく。
成功すると彼、すごく喜んだんです。

その子があと少し今より努力したら達成できる目標を設定していく、これは他の人材育成にも通じる部分があります。
意図してそういう目標を設定していくことで、その人はすごく伸びていきます。そういうことを彼に学びました。

研修においても、『受講生』としてひとかたまりでみるのではなく、一人一人を意識して研修を行っています。

──こんな先生に学生時代受け持って貰えたえら・・・と心から思います!そんな櫻井さんが影響を与えられたものは?

童門冬二の小説”上杉鷹山”です。


▲著者:童門冬二  販売元: 松竹 人物文庫 上巻713円 下巻713円

藩政を立て直しに血の出るような努力をした米沢藩主、上杉鷹山の生涯を描いた時代小説です。

当時全くのアウェイの状態で始まった仕事でスタッフからの反発にあい、退職まで考えていたことがありました。そんな時に偶然父の本棚で見つけたのがこの本。この1冊を読んで自分を客観的に見ることが出来自分が今すべきことが整理できました。

この小説のこのような一説があります。
『なせば為る 成さねば為らぬ 何事も 成らぬは人の なさぬなりけり』

▲皆さんもその一説、聞いたことあるんではないでしょうか?

リーダーとしてどこに向かうのか、立ちふさがる壁は何なのか、そしてどのように立ち向かうのか、どう道筋をつけるのか・・・。
管理職として部下への関わり、仕事の任せ方、相手の感情を察して配慮はするがそれに流されず冷静になる事、何より仕事の目的を見失わない事。
仕事における大切な部分を再確認することができました。

自分自身強くなり、覚悟を決めて相手に関わっていった結果、その姿を見て協力者が段々と増えて最終的に思うような運営、そして何より人材が育ちました。

これは私の大きな成功体験として心に残っています。

そしてもう1冊。
絵本の”ちいちゃんのかげおくり”です。

 ▲著者:あまんきみこ 販売元 あかね創作絵本 1404円

小学3年生の教科書にも採用されているこの絵本は初めて読んだ時に涙が止まらなかった。
今の平和は戦争の犠牲者があっての平和。今を生きる私たちはこの平和をしっかりと未来へ繋げていかなければならない、この使命と感謝を絶対に忘れてはいけないと強く思った1冊です。

勿論授業にも取り入れました。まずは実際に子供達とかげおくりで遊んで、楽しい体験としての印象を。そして授業で本の中身に触れて、楽しい日常が一瞬で壊れる戦争の悲惨さを学んで貰う。これは譲れない授業の流れでしたね。



企業を、人を育成していく


──沢山の貴重な体験をされた中で今の原動力は?

学びの友達が増えたことですね。
一緒にセミナーを受けに行ったり、そこで出会う友達です。

情報交換や、今度一緒にこんなことをしようという話をすると刺激になり、それが次への原動力になります。

あとは自分の子供の成長です。
大学生になって対等な会話が出来るようになってきました。社会のことが分かるようになってきて大人になってきましたね(笑)

──次に向けてのビジョンを教えてください。

「人それぞれの力を開花するサポート」を今まではしてきたのですが、これからは「人が輝いて生きるサポート」をしていきたいと思っています。

強い光を放つ人もいれば、柔らかな光を放つ人もいる。
それぞれの持ち味を活かした光り方をサポートできれば・・・。そしてその光を集めてそれを活かせる社会にしていきたいです。
それぞれがそれぞれの輝き方をしていれば、いがみ合いや妬みあいも無くなると思うんです。
例えばシニアの方のサポート。一線を退いた方が経験を活かして社会で第2の人生として輝く。
シニアの方が地盤を固めてその上に現役世代が未来を作っていくという、それぞれの輝き方をいかした社会の二重構造が作っていければと思います。

昔は年をとりたくないと思っていたけど、年を重ねていくと考えると楽しくて・・・良い重ね方をしたいなと思っています。
そう考えると楽しみが広がりますよね。

──櫻井さん、ありがとうございました!


いつまでも学ぶ姿勢を忘れない心に感服です!
優しさと芯の強さを兼ね備えた、正に将来こんな女性になりたいというお手本のような方でした。次回をお楽しみに!



研修オフィスSAKURA 代表 櫻井悦子

教壇を経て博覧会のアテンダント、ディレクターを経験。その実力から企業ショールームのチーフとして人材育成のスペシャリストとして携わる。独立後は企業や官公庁、学校へ研修講師として指導や、組織や業務に合わせた運営・応対マニュアルを作成するなど幅広く活躍している。